科研費は国立大学に所属していると採択されやすいのか?

科研費は文部科学省が主管する研究補助金(競争的資金)です。
お上が関係している以上、ある一定条件の下に平等な競走がなされなければなりません。
募集から審査結果に至るまで、文科省から各研究機関当てにしっかりと通知がなされるだけでなく、
ホームページなどで広く公表もされており、情報は誰でも受け取ることができます。
しかし、時々、こんな声を聞くことがあります。
「科研費の採択率は3割っていうけど、私立大学はもっと低いじゃないか。大学名で選んでいるのでは?」
果たしてそうでしょうか?


科研費は、翌年度の4月以降に行われる研究計画を対象に毎年秋に行われます。(※研究種目によっては募集時期が異なります。)
4月上旬に各研究機関に内定の連絡が一斉に届き、その後、交付手続きに進むのに大わらわです。
(なぜ大わらわかというと、交付内定=交付決定ではなく、改めて「やる」という意思表示と年度計画を作成しなおすのです。)

その後、研究種目ごとの申請件数、採択件数や交付金額だけでなく、研究機関ごとの採択件数などが採択の多い順に公表されるのですね。
上位にずらりと並んでいるのは国立大学ばかり。それを見ると「国立有利!」と思うのも仕方ありません。

ちなみにこの順位等は特に大学の規模などを加味されているわけではなく、純粋に内定件数と内定金額が新規採択、
継続と共に集計されているため、当然ですが、研究者の数が多い大学ほど上に載りやすいと言う側面もあります。

で、国立が有利かどうかという話ですが、私はあまり関係がないと思っています。

元科研費の審査員をしたことがある先生からこんな話を聞いたことがあります。

「国立大学だからといって点数を高く付けることはあり得ません。
 だけど、総じて言えるのは国立大学の先生はすごく文章が上手い人が多い。
 文章が上手く、非常に興味深く研究計画調書を書けているから点数を高く付けたくなるのです。」


「文章力を磨くためにはとにかく、書いて書いて書きまくるしかありません。
 科研費は重複申請ができる研究種目がありますね。そういうのも文章力を磨くチャンスと思って書けるだけ書いて
 どんどん応募してみてください。そうやって経験を積んでいくとどんどんうまくなっていつか通る様になります。」


私は国立大学の先生の科研費の書類を見たことがないのでどんな文章を書かれているのか比べることはできませんが、
人に伝えること、喋ることや書くことというのはある程度、経験で克服していけると思っています。


ある時、科研費をお持ちではない若手の先生が「科研費で購入した物品の備品登録をどうすればいいのか?」と相談にこられました。
話を聞いてみると、他大学の先生が研究代表者の研究に分担者として参加していたといいます。
その頃は研究分担者に科研費を配分せずに、研究代表者の所属研究機関が一括して研究費の管理をすることが認められていたため、
研究代表者の所属研究機関が備品を購入し、納入してくれていたというわけです。
(現在は「研究分担者承諾書」が必要だったりするため、このような行き違いはありません。)

先生ご自身も自分の研究を毎年熱心に応募し続けたかいもあり、とうとうご自分の研究も採択されました。
その研究の事務処理は私がやることになりますので、次第にいろいろとお話をする機会が増えていきました。

その先生は某大学で学位を取られており、先の研究分担者の話は某大学の恩師と共に行っている研究です。
ある時、ぽそっと「あー、あっちも研究報告書書かないといけないんですよね〜。」と漏らしました。
あまり大きな声では言えませんが、よーするに他大学に所属している恩師のお名前で申請している科研費についても
その先生が研究計画調書を書いたり、交付申請書を書いたり、研究成果報告書を書いたりしていたわけです。

事務処理がこっちに回ってこないので私が知らなかっただけ。
たぶんその先生の助手だった時代から、そうやって様々な書類を書く手伝いをしてきていたのだと思います。

内情を詳しく知っているわけではありませんが、国立大学では講座制のところがありますね。
そうなると教授をトップにしたピラミッドの下にずらりと研究者がそろっているわけで、
学位取り立ての助手ともなれば、科研費をはじめとした様々な書類を書いて、書いて、書きまくっていて、
その書類を経験豊富な諸先輩方から添削されまくっているんではないかなぁと思います。
この環境下ならば研究者としての研究実績だけでなく、事務能力?もスキルアップしそうです。

つまり国立大学に所属している先生は研究者として駆け出しの頃から、このような補助金の申請書から、報告書から、
はたまた論文に至るまで、徹底的に書かされて、鍛えられてきたのではと思うのです。(これは個人的な推測です。)

実際、某大学から移ってきた若手の先生は、この後、めきめきと力をつけられて、
ご自分の名前でだされた科研費も次々と通る様になりました。


ところで、冒頭の元審査員のお話は、科研費の学内説明会の時に講演して貰った内容の一部です。
「科研費の審査には国立、私立。有名、無名は関係ない。習うより慣れろ。とにかく出しまくれ!」と元審査員の言葉は先生方の心にかなり響いた様です。

今まで「うちの大学が無名だから通らないのでは?」とある意味、通らない理由を人のせいにしていたところもあったのでしょう。
「大学名など関係ない」と言われたことで、雰囲気ががらっと変わっていきました。
素直に重複申請可能な範囲内で研究計画調書を2つ出す人もいましたし、科研費以外の研究費も申請件数が増えました。

私が科研費を担当していた当初は採択件数は数件で(0の年もあった)それこそ採択率は1割を下回ることが普通だったのですが、
申請件数も倍増し、採択率は1、2割と上昇していきました。
つまり、無名の私立大学だって、研究内容がよければ採択されると証明したようなものです。

文科省が毎年発表する採択件数一覧の順位がステップを踏む様に少しずつあがっていくのは、感無量でした。
先生方がんばっておられたものなぁと。


また、「審査員の目を想像しながら計画調書を組立てる(1)」で例に出した毎年通る2人の先生ですが、
このお二人も当然ながら国立大学所属ではありません。

特に2人目の先生は大学に来る前は某民間研究所におられた方なので、学者としての知名度など皆無です。
それでも出すたびに通るのですから、国立大学だから通るという理屈は通りません。

自分の研究の良さを文章で審査員に伝える力があるか、ないか。それだけが鍵だと私は思います。


ちなみに文科省の補助金でももっと金額が大きく採択件数も少ない特殊な物の場合、大学名が関係することがあります。
その場合、引っかかるのは審査員ではなく、「官僚」だったりする。
研究の内容では審査に通ったのに、「某有名国立大学と共同研究にするなら採択してやると上が譲らない」と
困った様に担当者から泣きが入ったことがあります。

でも科研費の審査にはそういうチャチャは入ってくる余地もないので(特別推進研究などは別かもしれませんが)
存分に自分の研究実績を上げる場として活用してください。

政治力がいるようなでっかい研究費がとれる様になるためには、実績をコツコツと積んでいくのみですかね。


posted by もとじむ at 2016年09月30日 last update | 研究者が噂する審査都市伝説? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする