審査員の目を想像しながら計画調書を組立てる(1)

科研費の計画調書は誰もが書きやすい申請書類。」にも書きましたが、科研費はピア・レビュー(=研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証)を経て審査されます
民間の助成団体や企業との共同研究などは資金提供側からの研究の方向性や成果の要求に応える必要がありますが、
科研費は広い意味での学術研究の発展を目的としているため、この方式が最も適切だと判断されたのでしょう。

当然、審査員が誰かまでは公表されませんが、応募する分野に置いて、相応の実績を持つ研究者だと想像できます。
近年では審査をより公平に行う目的で日本学術振興会が審査員対象者のデータベース化を進めており、
学協会から情報提供や学術システムセンターからの推薦、さらに科研費に採択されたことのある研究代表者を
データベースに登録し、その中から必要に応じて審査員が選ばれます。
ある日突然、研究機関の科研費担当者宛に書類がやってきて、「お宅の◎○先生に審査員してもらいたいんだけど本人に了解とってくれない?」という確認を頼まれます。(書面です。そしてこんなラフな文章じゃないです。当たり前ですけど。)
先生が審査員になることを了承すると、審査書類の束が入っていると思われるびっちりとのり付けされた封筒が
「これを◎○先生に渡してね」と添え書きつきでぼーーんと送られてきます。

封筒の厚みはその時々によってまちまちです。
応募書類が多い研究種目、審査分野だと厚くなるでしょうが、密封されているため、
どの研究種目のどの分野の書類を審査しているかは本人にしかわかりません。
その後は審査員となった先生が指定の手順に従って公平に審査し、評価書類を学振に返送するわけです。

つまり先生のとなりの講座・研究室にいる同僚の先生が過去に科研費に通ったことがある場合、
その先生は今年の科研費の審査員の一人かもしれません。
(審査の公平性を期すために同じ所属研究機関の研究者の応募書類を審査させたりはしないと思いますけども。)

審査員に訴えかける方法にもいろいろある。


審査員が同じ研究者である以上、審査員がどのような視点に注目するかがある程度想像ができます。

私が科研費を担当していた時、100発100中で出すたびに必ず審査に通る先生が2人いました。
二人とも熱心に研究活動に取り組む研究者であることには代わりありませんが、応募書類の作り方は全くの真逆という程違いました。
ここでは、その二人がどんな風に書類を組み立てていたかをお話しします。

百発百中一人目:同じ分野で実績をコツコツと積み重ねて行く派。


この先生は自分の研究をひたすら貫き、応募分野も自分の所属学会の領域、所属分野からはみ出ることはありませんでした。
最も一般的な研究種目である基盤研究(C)で応募。2〜3年で成果がでるように研究計画を組み立てて研究成果を出します。
研究成果は必ず査読付きの国際学会で発表。学会や研究会の委員は積極的に引き受け、その分野での実績も知名度も積み重ねていました。

そして、科研費の研究期間の最終年度になると、これまでに行ってきた研究の成果を織り込みながら、
次のステップの研究として研究計画調書をまた3年くらいの研究計画としてとりまとめて応募します。

文章のまとめ方も非常にうまいのですが、応募ごとに研究成果は増えているし、様々な役職も歴任してその分野での研究者としての知名度も出すたびにあがっていて、審査員が悪い評価をしようがないのです。

基盤研究(C)で繰り返し出さずに最初から基盤研究(B)にして期間も金額も増やせば応募書類を書くのも、
報告書を書くのも一回ですみそうなものですが、
最初から大きな研究計画を作った場合、途中で思っていた方向に研究が進まなくなる可能性もあります。
無理がある計画だった場合、審査員にそこらへんを見透かされるかもしれません。

3年で500万円以内に収まるように研究計画を立て、こつこつとそれを続けていく方が
通りやすいという作戦を採っておられました。

研究計画調書の「研究目的欄」には「研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」を書かされますが、
まさに自分の力量といいますか、他の業務などを含めた仕事を抱えた上で、どこまで成果を出せるかを
的確に見切って書かれていました。

ちなみに研究計画調書の中身にグラフィカルな素材を駆使したりといった小手先の技などいっさい使っていませんでした。
文章だけでびっちり埋め尽くされた書類なのですが、有無を言わさない説得力にあふれる表現力で
確実に審査員の心を突き動かし続けました。まさに王道中の王道という感じ。

勿論、研究成果を積み重ねて行くので、毎回、提出する審査希望分野は同じです。

ちなみにこの先生、研究成果は国内外にキッチリ発表をし続けていたので、ある時、外国の研究者から「あなたの研究は素晴らしい!一緒に共同研究しませんか?」と言われて困って相談にきました。
話を聞いてみると、研究契約を交わしたり、研究費の負担をしあったりするような段階ではなさそうだったので、
「先生ご自身が研究者としてつきあう意志があるかどうかで判断されて構いませんよ。」という話になりました。

その後はその先生とそんなやりとりをしたことなどすっかり忘れていたのですが、
次の科研費の応募書類にしっかりと、その外国人の名前が外国人研究協力者として記載されておりました。
その後、メールのやりとりなどを通じて議論をし続けていたようなのです。(今の時代は海を越えるのも簡単です。)

応募のたびに研究計画調書がパワーアップしていて、「うわーーっ。こう来たか!」といつも書類を見るたびに驚いていました。
勿論、本人の努力の成果なのですが、その成果を人にわかる形で表現するのが非常にうまかったです。


百発百中二人目:応募課題によって審査希望分野も文章の書き方も変える派。


2人目の必ず通る先生の場合、まったく真逆のスタンスで公募書類を書き上げていました。

「今回はこんな研究をやってみたい!」そう頭の中に研究計画のアイデアが思い浮かぶと、
まず最初にどんな分野の審査員が一番興味を持つかを考えるそうです。

応募課題の内容に近い分野だけでなく、違った視点でつながりがありそうな分野を候補に上げ、
それらの分野を専門としている審査員であれば、応募書類のどんな点を新しいと感じるか、どんな書類を望んでいるかを思い浮かべるといいます。

例えば、純粋に学位を取ってからずっと学者をやっている審査員と、民間企業などで研究職をした後に
大学の教員になった人では、視点が変わってきます。
科研費の「採択課題・公募審査要覧」や「科研費助成事業データベース」等で過去の採択課題は公表されていますので、
その審査分野で評価される課題の傾向を見ることもできます。
(※データベースができたため平成24年度版から出版を停止したようです。)

また学振の審査員データベースには、過去の科研費の研究代表者が登録されているわけですから、
今回の応募課題を評価する審査員はその過去の科研費の採択一覧に載っている人物の可能性も高い

そのように応募課題や審査分野の傾向を客観的に眺め、手に入れられる情報を手に入れて分析した上で、
応募課題に最も適当な審査希望分野を決め、それに応じて研究計画調書の表現方法も変えます。
その分野の審査員なら、図表でデータを示すのが当たり前で図表が理解されやすいか、文章で訴える方が伝わりやすいか、
それともイラストや写真がインパクトを与えるか、そういったことまでも想像してみるそうです。

そうやって独自の分析を経て応募しているので、出すたびに審査希望分野が全く違いました
その上、研究種目も基盤研究(C)だったり、萌芽研究だったり、基盤研究(B)だったりと研究の規模に合わせて選定した上で、応募。
でも、私が担当していた間、100発100中で採択されていました。(しかも補欠採択にだったことも一度もない。)

その先生は、自分の研究を客観的に見る目が非常に鋭く、的確だったのです。

応募分野を毎回変えているのですから、その分野の審査員への知名度は必ずしも高くはないはずです。
一人で行う研究か、もしくは自分の研究室で面倒を見ている若手の助教などの協力を得て研究分担者に加える程度で
著名な研究者をずらりと研究分担者に加えるようなことも一切しません。

科研費の採択には本人の研究者として知名度はあまり関係がなく、内容次第だということを証明してくれた方でした。

ただし、当然ですが、書類の書き方がうまいだけで毎回採択されていたわけではありません。
学会発表や論文投稿、企業との共同研究など、研究活動は誰よりも熱心で、実績も残していました。
そして、その実績は次の応募課題の「研究業績」に反映されていたことは言わずもがなです。

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どっちのタイプの先生にも共通しているのは、研究をやり抜くであろう熱意と成果を残しそうな雰囲気が伝わることでしょうか。
研究のスタイルが違ったので、その伝えるやり方は全く異なっていました。

以前、「通る書類は素人が読んでもわかった気になる」と書きましたが、ご多分に漏れず、この二人もあてはまります。

若手の研究者は「そんなこと言っても実績なんかまだない!」と思われるかもしれません。
でも例に出したお二人ともその実績がないところからスタートしているのです。
研究実績がたくさんあると説得力が割り増しされるのは事実ですが、それだけではないということです。
そして、若手研究者は若手研究という研究種目に出すこともできるというメリットもあります。


ただ、こういうのは言葉で説明してもよくわかりませんよね。
このページで具体的な例などを交えて説明出来できればよいのですが、そういうワケにもいかない。
(研究内容を例に出したら人物が限定されてしまいますので・・・。)

私は若手の先生などから「どういう書き方をしたらいいのかわからない」とざっくりとした相談を受けると、
過去に採択された応募課題の研究代表者に許可を取り、応募書類そのものを実際に見てもらうようにしていました。
(お手本にしたいという要望なので「イヤです」と断られることはなかったです。)

特にこの必ず通る二人の書類は付箋などをつけて、「このお二人はいつも通るんですよ」と必ず目を通すように促していました。

実際には年度ごとの応募ファイルをまるごとぼーんと渡して「好きに見てください」とゆっていたので、
不採択のものも読んでいたかもしれませんが、その辺りは許して頂くとして・・・。
(ファイルを持ち帰ったり、コピーしたりは当然、キッパリとお断りしておりました。)

採択されたことのある先生と親しい場合は直接お願いしてみるのもアリだと思います。
ご自分の所属研究機関の事務担当者に保管されている研究計画調書を見せてもらえないか聞いてみてはどうですか?

誰かと比べることは、自分に何が足りないかを見極めるのに絶対に役に立ちます。

(長くなってしまったので、つづく)
posted by もとじむ at 2017年09月13日 last update | 研究計画調書作成のポイント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする