最も重要なのは研究の背景をどう書くか。

十数ページにも渡る科研費の研究計画調書を作成するにあたり、最も力を入れて書くべきページは調書の冒頭にある研究目的です。
その応募課題の学術的背景や社会的意義、研究の着想、何をどこまで明らかにするのか、そしてその課題を
遂行することによって、学術的にどんな発展が得られるのかということを訴えるページです。
そしてこの次の段階で、この目的を達成する為に必要な研究方法を述べ、研究に必要な費用を案分して記載し、
その研究をやるだけの力があると説得するために研究業績を記載してフィニッシュ!です。

研究として最も重要なのは「研究方法」、それから得られる「結果と考察・研究成果」であることは明らかですが、
いくら素晴らしい発想の研究でもその研究の意義を審査員に訴えかける力がなければその時点ではじかれてしまいます。
審査員がその研究の続きが知りたくなるように、興味をかきたてることが重要です。
なぜなら冒頭で興味を失えば、いくら次の研究手法が素晴らしくても書類を読んでもらえなくなるからです。

これまでに様々な研究計画調書を読んできましたが、採択される研究に共通して言えることがあります。
それは通る書類は素人が目を通しても内容がわかった気になるものばかりなのです。

読後感はたいてい「面白そうな研究だなぁ。研究成果を知りたいなぁ」と好感度が高い。
勿論、小難しい専門用語など何のことだかサッパリわかりませんが、それでも応募書類を最後まで楽に読み切ることができる上に、
「この先生はこういう研究をしているんですよ。うまくいけばこんな成果がでるんですよ」
素人のはずの私が他人に説明できるのです。

逆に素人でも明らかに「これはだめだ!」と思う書類は、読み手のことを全く考えていません。
小難しい専門用語やカタカナ語を並び立てていて、何を言いたいのかがよくわからない。
研究テーマを絞り切れておらず、訴えたいことがありすぎて、細かい文字でびっしりと文章が埋め尽くされている。
起承転結もなく、文章が支離滅裂。すんなりと文章が頭に入らないので読むのが苦痛。

審査員は仕事なので最後まで書類に目を通すかもしれませんが、斜め読みになることは想像に難くありません。

「学術研究なのに素人に訴えてどうするんだ!」と思われるかもしれません。
でも私はこう思います。
学術研究というのは他に誰もやったことのないことに挑んでいくことで発展していくものです。
大げさに言うと、先生が応募しようとしている課題は、先生が唯一の専門家であり、他の人は素人なのです。

先生の頭の中では常識である言葉や手法は、審査員の先生にとっても常識とは限らないという視点をもちつつ、
かつバランス良く専門的な言葉を交えて書くと説得力が増すと思います。


文章力で審査員を説得する


科研費の研究計画調書は原稿用紙の様に升目があるわけでもなく、罫線が引かれているわけでもありません。
使用するフォントや文字の大きさにも制限がありません。(11ポイント以上を使用せよという但し書きはあります。)

A4で1〜3ページという枠の中でどのように表現をするのかは書き手の自由です。
ここ数年は図表やイラスト、フローチャートなどを駆使した申請書類も多くなってきましたが、
まだまだ文章一本で勝負する先生も多いです。

面白い小説を読んでいると、頭の中に想像の世界が広がり、寝る間も惜しんで読破してしまうことがありますが、
文章というのは表現の仕方次第で自分の思いを効果的に訴えることができます。

読みやすい書類は、文章にテンポがあり、研究の前提条件や背景がわかりやすく、これまでの研究との違いが明確で、
読んでいて続きが気になります。

また、「何がなんでも今これをやるべきなのだ!」とその研究に対する情熱的な熱い思いがあふれていて、
「この人ならやり遂げるかも」「なんだか今この研究をしてもらわないといけない気がする」と思わせる力を持っています。

例えば、近年の社会的問題になっている事象を上げ、その問題を解決すべくこれまでに行われてきた様々な研究事例を例示し、
これまでの事例ではここが問題だと問題点を指摘します。
その後に「私の研究ではそれをこのように解決出来る。」と自分の研究の優位性を訴えかけるという具合に、
書くべきことを書くべき順番で書くと、読み手が前にもどって文章を読み直して意味を考えたりせずにすむ上に、
最後にその研究のアピールポイントがでてくるため、印象に残ります。

その時に「この研究は大きな可能性を秘めている」「今やらねばならない」「ここが元来とは違う」「学術的に価値がある」といった
応募課題の優位性が伝わるように、びしっと強調して書いてください。
ここで研究の価値が伝わると、「じゃ、具体的にどうやってそれをやり遂げるわけ?」と読み手は次のステップが気になります。
研究目的欄は研究方法を興味を持って読んでもらうための導入部分になるわけです。

また、過去に科研費の採択経験がある場合は、前回の採択の経験を絶対に無駄にしてはいけません。
前回採択された研究でここまで解明した。今回はこの結果を踏まえてこういうことをやるのであると。
前回貰った研究費で成果を出したし、成果からさらに発展させる手法を研究背景の中に盛り込みつつ、プレゼンします。
自分の研究者としての価値を上乗せしてアピールしていくのです。

実はこれは研究計画調書の「研究目的、研究方法など」欄の書き方に書かれている具体的な指示そのものです。

研究目的、研究方法など
本研究計画調書は「小区分」の審査区分で審査されます。記述に当たっては、「科学研究費助成事業における審査及び評価に関する規程」(公募要領111頁参照)を参考にしてください。
本欄には、本研究の目的と方法などについて、3頁以内で記述してください。
冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、について具体的かつ明確に記述してください。
本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述してください


通る書類を見ているとこの指示通りに的確に書かれている場合がほとんどです。

平成30年度の公募から、研究計画調書の書式が大幅に見直されました。
今回の改定より、研究目的欄と研究方法欄が一緒になり、各2ページだった記述欄が統合されて3ページになりました。
これまで、研究目的欄に方法まで書いてしまい、こんがらがっている先生が結構いらっしゃいましたが、
今回の統合により、よりすんなりと、背景、目的、方法という流れで研究計画調書と組み立てられるかと思います。

ちょっとシンプルになり、戸惑う先生も多いかも知れませんが、研究計画欄は2ページもいらないのでは?ということも多かったので、個人的にはちょうどいいページ数になったように感じます。


立ってる物は親でも使え。伝わる文章かどうかは他人の助けを仰ぐ。


自分のまわりにいる似たような専門性の同僚や恩師などに書類を見て貰う方は多いと思いますが、
似たような専門性を持つが故の落とし穴もあります。
専門が近い人はわかりにくい組立の文章でも、書かれている専門用語などから類推して書類の内容を理解してしまうからです。

しかし、審査員は、あくまでも「審査区分表(基盤Cの場合小区分)」に書かれた大まかな分類に該当する研究者であるため、
自分のまわりの研究者は理解する常識的なことでも、応募書類を審査員するすべての審査員が
同じような専門的知識を持っているとは限りません。
自分ではうまく書けたつもりでも実は正しく伝わっていないこともあり、そうなったら非常にもったいないと思います。

冒頭にも書きましたが、通る課題は素人にも最後まで読ませる説得力があります。

ですので、できあがった書類は家族や友達など、忌憚のない意見を言ってもらえる専門外の方にも読んでもらうことをオススメします。
意味の通る文章か、興味をかきたてるかという目線で書けているかは素人の方がよくわかるからです。

所属研究機関の担当事務員に聞くという手もありますが、事務員の立場に立って言わせてもらうと、
教員に向かっていえるだめだしは、事務的な手続き上で間違っていることを指摘することだけです。

おおざっぱに言えば申請書類を書くことも研究論文を書くのと同じようなものです。
研究者の研究活動に含まれることであり、口出しすべきことではありませんし、
それ以上に、事務が専門家である研究者の研究に口出しするのは生意気だ!と反発される可能性が高いですから、
そこは「触らぬ神にたたりなし。」です。「うわー、意味わかんねぇ。」と思っても黙ってます。

事務員が胸を張って指摘できるのは、自分の専門である事務的な誤りだけなのです。
自分よりもずっと年下の新米研究者にすら研究内容についてを口出しすることはできません。

ですので、気遣いなく、ズバスバと意見を言ってくれる身内や友人などに是非一度読んでもらってください。
自分の伝えたい通りに文章を読みとってくれれば、文章の組立がうまくいった証拠です。
「なんでこうなるの?」「意味がよくわからないんだけど」と言われたところは、再考する余地があると思います。
(勿論、専門用語など、素人が理解するバズのない言葉の意味などはわからなくて当たり前です。
 文章が上手だと、専門用語がわからなくてもわからないなりに、研究の内容は理解できます。)

また、素人だけに見てもらうのでは専門的な内容までは理解できないため、併せて似た分野の研究者にもお願いすればさらによい。
なるべく忌憚ない意見をずばっと言ってくれる辛口の方にお願いしてみてください。

図表、イラスト、フローチャート、写真をうまく駆使する


科研費の研究計画調書は「文章だけで書け」という言葉はひと言もありません。
また、「カラー原稿にしてはならない」という言葉もありません。
つまり、文章だけで説得する文章力がない場合や数値データなどを比較して優位性を示す場合など、
図表やイラストを駆使して、研究内容をわかりやすく訴えることができます。

フォントは指定されていません。(ただしフォントサイズは11ポイント以上と注意書きがあります。)
強調すべき大事な言葉に下線を引いたり、太字で強調することもできます。

ただし、図表というのは使いすぎると邪魔くさいですし、カラフルな書類を仕上げたとしても
審査員に届く審査書類はモノクロのプリントアウトだったりするので、過度な装飾は逆効果です。
(電子申請になる前は提出原稿は自分で審査員に渡る原稿(副本)までプリントできたのですが、
 今はグレースケール印刷したものが審査員に渡ります。公募要領にもちゃんと注意書きがあります。)

全体の文章は明朝体にし、強調したい単語や文章のみゴシック体にしたり(ゴシック体は太く見えるので印象に残る。)、
数値を羅列するだけでは頭に入りにくい統計データなどをグラフ化したりして、
より研究目的が印象づけられるように、効果的な使い方をしてください。


研究目的欄で審査員の興味をかきたてることができれば「じゃあ、具体的にどうするつもりなのだ!」と
研究方法欄をじっくりと読んでもらえます。

審査員が仕事だから嫌々読むのではなく、自ら読みたくなるように興味深く導入部分を書くこと。
最初にいかに審査員のハートをわしづかみするかが鍵といえるのではないでしょうか。

---

このページも自分で読み返していて文章の羅列でわかりにくいと思ったため、
効果的に審査員に研究内容を訴える書き方の例」というページを作ってみました。

本当の具体例を書ければもっと良いのですが、具体例を書けば書くほど誰を例に出しているかがわかってしまうため、
具体例ではなく、適当に思いついた例になっている点はご了承ください。




posted by もとじむ at 2017年09月26日 last update | 研究計画調書作成のポイント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。