科研費の計画調書は誰もが書きやすい申請書類。

科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金。以下、科研費)は文部科学省が主管する研究補助金です。
文部科学省風にお堅くいうと「競争的研究資金」。
つまり手をあげれば誰もがもらえるワケではなく、審査を通った研究課題に適切な研究費が交付されます。

対象となる研究分野は幅広く、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたる上、
我が国の基礎から応用までのあらゆる「学術研究」を発展させることを目的とした研究補助金です。
研究機関に所属している常勤の研究者もしくは非常勤でも所属機関が事務取扱をするのであれば応募できます。
応募できる研究分野が限定されておらず、また審査員が日本の研究者であり、採択率も30%と非常に高い。
日本の研究機関に所属する研究者にとって、最も研究資金を得やすい補助金制度です。

科研費の獲得件数や交付額が多いことは研究機関としてのステータスにもなります。
少子化で受験生が減ったり、国公立大学が独立法人化したりといった社会的な背景もあり、
科研費の獲得件数を増やすことが研究機関としての至上命題みたいになってきており、
応募しなければ研究機関から交付される研究費を減らされたり、逆に応募や採択でプラスされたりと、
これまでさほど競争的資金の応募に積極的ではなかった研究者にとっても人ごとではなくなりつつあります。

20年前は数枚にまとめれば良かった応募書類が気がつけばA4サイズで14ページあまりになっており、
文章の組立が苦手な人にはそれだけでめまいがするでしょう。
特に昔から応募をしてきた人にとっては「なんでまたフォーマット(様式)が変わってるの!」といらつくこともしばしば。
しかしこの業務に裏で携わってきた私からすると、審査員や応募者の声を上手にくみ取っているなぁと感心します。
一度に何十万件も集まる応募書類を公平に審査するためによく考えられているのです。

煩雑な日常業務に追われている研究者にしてみれば、そこまで細かく応募書類を見てられないようで
書くべき事柄が書くべき場所に書いてなかったり、応募要項をよくよんでおらず勘違いしていたり、
研究の中身を伝えきれないが為に書類審査で落ちるという非常にもったいない状況が起こっています。
研究計画調書の大まかな構成と書き方のコツを憶えさえずればこれほど書きやすい応募書類はないです。

科研費の研究計画調書が書きやすい理由


応募書類のページ数やフォーマットが決まっている。


かつて応募書類のページ数は基盤研究で6〜8P程度でしたが、今では倍近くなっています。
応募書類の枠を広げたり、伸ばしたりといった改変は認められていませんが、
研究業績欄などこれまでの実績や共同研究者の人数などで記載量が増減するページなど対応したり、
数打ちゃ当たるとばかりに同じ研究内容で様々な助成機関へ研究費を応募する行為や
名前貸しのようなことを防ごうという趣旨で作られたと見られるページなどが増えているため、
実際には純粋に「研究内容」をアピールする部分が大幅に増えたわけではありません

また、研究背景や研究方法などの主要な欄も以前に比べると余裕を持って設けられており、
文章を補足するために図や表、写真などの貼付もしやすくなっています。

応募書類の欄が狭すぎる場合、簡潔で的確にアピールする文章力が必要になりますし、
逆に様式改変が自由の場合、どこまで書けばいいのか判断するのが非常に難しいものです。

また、様式がきちっと決まっているだけでなく、各欄に必ず「ここには何を書いてください」という具体的な指示があります。

例えば、平成30年度の基盤研究(C)の研究計画調書「研究目的、研究方法など 」の欄にはこのように書いてあります。
研究目的、研究方法など
本研究計画調書は「小区分」の審査区分で審査されます。記述に当たっては、「科学研究費助成事業における審査及び評価に関する規程」(公募要領111頁参照)を参考にしてください。

本欄には、本研究の目的と方法などについて、3頁以内で記述してください。

冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、について具体的かつ明確に記述してください。

本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述してください。

この注釈に沿って書くだけで的確に審査員に研究目的等が伝わるし、読みやすい。
逆にこの中身を無視して書いてあるものは、文章がだらだらと長く、話も前後してわかりにくいものもあり、
そういった独りよがりな応募書類は大概、審査で落とされています。

難を言えば近年は応募書類はホームページからダウンロードできるようになってしまったため、
研究計画調書のみをダウンロードし、応募要項などをよく読まずに書類を書く人が増えたことでしょうか。
事務的な注意書きは応募要項のほうにまとめてあったりするので、めんどくさがらずによく読まねばなりません。

審査員が同じ研究者のため、何をポイントにするか想像しやすい。


科研費は学術研究を発展させることが目的のため、政策的、商業的な研究補助とは一線を画します。
例えば企業との共同研究の場合はその企業の技術向上等、具体的な目的と成果を出すことが暗に求められますが、
科研費はいわば同じ仲間である研究者が審査をするため、審査のポイントが想像しやすい。

逆にその分野の研究者の固定観念を覆すような斬新な主張を持つ場合、主張が通じないコトもあり
その辺りをうまく考えながら書くとよいのではと思います。
自分の専門分野と同じ審査員に審査して貰うのではなく、どの分野の審査員が最も応募課題を理解してくるかを考え、
審査希望分野を自ら選べる点がポイントです。

研究の内容や規模によって様々な研究種目がある。


科学研究費補助金には例えば次のような研究種目があります。
 ■新学術領域研究、特定領域研究、特別研究促進費、研究成果公開促進費
 ■基盤研究(S)、基盤研究(A・B・C)、挑戦的萌芽研究挑戦的研究(開拓・萌芽)、若手研究、研究活動スタート支援、奨励研究

応募する研究種目により、文部科学省が直接管轄するものと日本学術振興会が取り扱うものに分かれています。
(現在はほとんどの研究種目が日本学術振興会の管轄です。)
これらの研究種目は研究の規模や特徴、研究代表者の年齢などにより応募条件が異なります。

例えば、長く研究の第一線で活躍しており、研究成果を積み上げてきた研究者と
学位を取り立てで研究成果と呼べる物が少ない研究者の審査員がつけた点数が同じになった場合、
「研究実績のある方が成果をだす可能性が高い。」と思われて採択されやすい可能性があります。
若手の研究者とベテランを同じ土俵で評価すると、若手の育成が滞り、長い目で見ると日本の学術研究が衰退していきます。
そのためか、若手研究者のみが応募出来る研究種目が設定されています。

民間の助成財団や他の助成金ではこのような細かい区分があることは滅多にありません。
自分の研究課題の規模や特徴に最も適した研究種目を選ぶことが採択への近道です。

研究費の使い方や成果発表などに柔軟性がある。


科研費は応募の時点でその研究に必要な経費を計算し申請しますが、
そもそも「研究」ですから実際に計画通りに成果がでるとは限りません。
様々な理由で研究が遅れたり、研究に使う物品が変更になったりした時もだいたい認められますし、
細かいことは所属研究機関の裁量に任されているため、使い勝手が良いです。

助成金によっては助成制度によりこまかーく使い方や備品の扱いなどがことなるため、
研究以外の事務的なことにも気を配らなければなりません。
実際に国民の血税が財源ですから不正使用を防ぐために必要な措置なのはわかりますが、
例えば「文具は研究機関に通常備えられている物であり、買うのは認められない」とか、
「プリンタ用紙を購入しているが、そのうちの何枚をこの研究に使ったのか証明せよ」とかあとで言われても困るわけです。
(じゃあ、プリンタの不具合で印刷を失敗したらどうするんだとか思いません?)

科研費は全体の規模が大きく、様々な研究背景を持つ研究課題への助成をしており、さらに研究の規模も多種多様です。
一つ一つのケースにぴったりはまるルールなど作れるわけがありませんので、
研究費は研究機関が適切に事務処理を行うという条件付きで研究費を交付してくれます。

管理が自分の所属研究機関に任されているため、所属研究機関から交付される研究費の使用方法と
かけ離れた扱いにはなりにくく、研究に専念しやすいと思います。

応募した研究課題を遂行する目的で交付された研究費であることや、
その研究費の財源が国民の血税であるという一般常識を頭に入れておけば、
おかしな使い方をすることにはならないはずです。

さらに近年は基金化や調整金の導入により、年度をまたがった研究費の利用ができるようになったり、
他の研究費との混同使用が条件付きで認められるようになったり、
研究費の使用に関する柔軟性が格段にアップしています。


研究成果については1年ごとの実績報告は概要を報告するだけでよく、
研究期間終了後にまとめる報告書も以前は書籍のように分厚い報告書を印刷し、国会図書館に納めていましたが、
現在はある程度形式の決められた報告書を科学研究費助成事業データベース(http://kaken.nii.ac.jp/)のサーバーにアップロードするようになりました。
また研究成果報告書は研究終了の翌年度の6月30日までに提出することになっていますが、
ただちに研究成果をまとめられない正統な理由がある場合は研究経過報告書を提出することで、
一時的に研究成果報告書の提出期限を延長してもらえます。
(まとまり次第速やかに提出するという条件付き。あまりにルーズだと次の公募で審査から外されることもあります。)

学術研究の発展を目的にしたいるため、その発展を妨げるようなことを極力排除しているとも思われます。


このように科研費は最も研究者の視点に立っており、申請しやすく、得やすい競争的資金だと思います。
科研費などを利用して研究成果を積み上げていくことは研究者としての名前をあげることにもなり、
他省庁や企業との共同研究などに繋がっていく可能性もあります。

次回からは徐々に具体的なテーマで計画調書の書き方のポイントなどを書いていきます。

posted by もとじむ at 2017年09月09日 last update | 研究計画調書作成のポイント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする